形成外科

診療科長挨拶

 形成外科のページをご覧いただき、ありがとうございます。
 形成外科は、身体に生じた組織の異常や変形、欠損、あるいは整容的な不都合・不満足に対して、あらゆる手法や特殊な技術を駆使し、機能だけでなく形態的にもより正常に、より美しくすることで、その人の生活の質”Quality of Life”を向上させる、外科系の専門領域です。また、美容外科は、形成外科の知識・技術を駆使して、正常な形態を更に美しくする診療分野です。
 当科は国内で数少ない性同一性障害の認定治療施設の一つであり、広く日本全国、あるいは海外からも多くの方々が受診されます。(本疾患での具体的な受診の流れについては「性同一性障害の外科治療について」をご参照ください。)また、県内唯一の特定機能病院として、悪性腫瘍切除後の再建治療など、難易度の高い治療についても、他診療科との連携を活かして進めております。その他、眼瞼下垂、顔面神経麻痺、レーザー治療、美容外科、難治性潰瘍、リンパ浮腫など、近年ますます形成外科の診療範囲は広がっておりますので、地域の他施設と連携して、大学病院にふさわしい、高度で安全な医療を提供してまいります。

山梨大学医学部 形成外科 百澤明

診療科紹介

 当科は平成23年まで、皮膚科内形成外科診療班として、皮膚外科治療を中心に担当してきましたが、平成24年から正式に診療科として独立し、正式に山梨大学医学部附属病院形成外科が発足しました。
 現在、形成外科担当医が8名、その内日本形成外科学会認定専門医が4人で診療にあたっております。山梨県内で、最も多くの形成外科医が常駐する診療機関となっております。中でも、国内では数少ない性同一性障害の手術治療認定施設の一つとして、県内のみならず広く県外からの紹介受診も多いのが特徴です。(具体的な受診の流れに関してはこちらを御覧ください。)また、特定機能病院の中の形成外科として、他診療科と連携して、悪性腫瘍切除後の再建術なども積極的に行っております。
 顔面骨骨折、手指外傷、眼瞼下垂症、リンパ浮腫、褥瘡、下肢潰瘍などにも、他診療科・他施設と連携して、幅広い治療にあたっております。

対象疾患について

1)外傷(顔面、手指): (鼻骨骨折・頬骨骨折などの顔面骨骨折)

2)瘢痕(きずあと)、ケロイド:(薬による治療から手術まで)

3)先天異常:口唇口蓋裂、耳介の先天異常、頭蓋顔面の異常、多指症・合指症など

4)皮膚・軟部組織腫瘍:母斑、血管腫、皮膚・皮下腫瘍などの良性腫瘍
 *あざのレーザー治療も当科で扱っております。

5)皮膚悪性腫瘍:皮膚がんなどの切除・再建を、皮膚科と連携して行っております。

6)頭頚部腫瘍:頭頚部悪性腫瘍の切除後再建を、耳鼻科と連携して行っております。

7)乳房再建:主に乳がん手術による乳房欠損の再建を、乳腺外科と連携して行っております。(乳房再建についてをご参照ください)

8)性同一性障害:当科は国内の数少ない認定治療施設です。(性同一性障害の外科治療についてをご参照ください)

9)顔面神経麻痺:急性期治療後に残存した麻痺に対して、手術治療を行っております。

10)その他:眼瞼下垂、リンパ浮腫、美容外科 など

乳房再建について

乳房再建ってなに?

乳がんの切除により変形してしまった、あるいはなくなってしまった乳房をできるだけ元に戻すための治療を「乳房再建」といいます。

乳房のふくらみは女性の象徴でもあり、「女性でなくなった」といった喪失感の改善や、「温泉行きたい」「子供や孫とお風呂に入りたい」「オシャレやスポーツを楽しみたい」といった願いを叶えることもできます。

乳房再建術は手術する時期や手術法が数種類あります。これからの項目で、それぞれ説明していきます。

乳房再建の時期

・乳がんの手術と同時に再建するのが1次再建
・乳がんの手術のあとで再建するのが2次再建 となります。

1次再建(同時再建、immediate)は、同時に行うため、手術回数が少なくて済み、術後の乳房の喪失感も少なく、費用負担やかかる時間が比較的少ないのが利点ですが、じっくり考える時間がありません。

2次再建(delayed)は、乳がん手術を終えてから、乳房再建手術をおこなうことです。乳がん治療がある程度落ち着いてから再建に移ることで、じっくり方法などを考える時間があること、術後の合併症も比較的少ないことが利点です。しかし、手術回数やその時間、費用などが増える、といった欠点があります。

また、後述するティッシュエキスパンダーを用いて2回に分けて行うかどうかで、1期再建(one-stage)か2期再建(Two-stage)かに分類されます。


1次・2次再建、一期・二期再建の特徴

  1次再建 Immediate
切除手術と同時
2次再建 Delayed
 切除後に時間をおいて

一期再建 One-Stage

1次一期再建
切除含めて1回で完結
(インプラントか自家組織)

 乳房の喪失感がない
入院期間が少ない
(熟考する時間がない)

2次一期再建
 1回の再建手術で完結

熟考できる
ほぼ自家組織のみ
他施設で再建可能

二期再建 Two-Stage

1次二期再建
切除+エキスパンダー
→拡張してから第2回
(インプラントか自家組織)

熟考する時間がある
(2度手間)

2次二期再建
エキスパンダー挿入手術
→拡張してから第2回
(インプラントか自家組織)

熟考できる
切除のきずあとのみ
(入院期間は最長)

乳房再建の方法

再建する材料(何を使うか)によって、人工物(シリコンインプラント)と自家組織(ご自身の身体の一部、皮弁)に分かれます。

シリコンインプラント(以降インプラント)を使用する場合、一次再建(同時再建)でそのまま挿入することは、皮膚壊死や感染といった合併症が起こりやすいので、ティッシュ・エキスパンダー(以降エキスパンダー)をまず挿入し、拡張してから再度手術で入れ替えを行うことがほとんどです。

自家組織には、
 ①腹部皮弁 
   a)腹直筋皮弁
   b)腹部穿通枝皮弁
 ②背部皮弁
   広背筋皮弁
 ③その他
   他の部位の皮弁(臀部、大腿 など)
   脂肪移植
があり、まだ発展中のものもありますが、
当院では主に、①腹部皮弁を用いて再建を行ってます。

 

利点

欠点

インプラント(人工物)

手術が簡単、短時間(30分~2時間)、体のほかの場所を傷つけない 感染に弱い、冷たい
長期的には、被膜拘縮、破損・BIA-ALCLの可能性
自家組織 感染に強い、暖かい
長期的に安定
採取部のキズ、障害
長時間手術(腹部:6-8時間)
血管吻合した場合、閉塞→壊死の可能性(まれに術後縮小の可能性)

手術後の経過

どの方法を選択しても、かたちの「左右差」はある程度生じてしまいます。
一般的に人工物(インプラント)再建後の長期的な左右差は、健側(手術を受けていない側)の生理的な変化(増大・縮小や下垂など)もあり、自家組織に比べ多くなる傾向があります。状態によっては、この修正手術や、きずあとの修正を行うこともあります。


乳房再建後の満足度調査について

2009年アメリカのHuらは乳房再建術後の患者満足度を術式ごとに確認しました。

その結果は、以下の通りです。
①術後3年まではエキスパンダー・インプラントの満足度が高い
②術後3年以降は自家組織(腹部皮弁)の満足度が高い

Hu et al:PRS 2009より引用改変

乳輪・乳頭の再建

乳輪・乳頭も健康保険の適用で再建できます。
乳房再建術(自家組織・人工物ともに)の後、6か月以上の期間をおいて、ご希望を踏まえて行っています。

他に修正の追加がないような単独手術の場合、2~3泊の短期入院、あるいは関連施設での日帰り手術を行っています。

方法は、以下の通りです。
①健側からの乳頭部分移植 + 乳輪皮膚移植
②乳頭皮弁再建 + 乳輪皮膚移植

②乳頭皮弁再建の場合、乳房の皮膚から再建するため、乳頭の色を付ける施術(アートメイク:保険適用外)が追加されることが多いです。

アートメイク (健康保険適用外)

乳輪・乳頭の再建手術終了後、主に皮弁で再建した乳頭に色を付けていく施術です。
外来で日帰りの施術として行います。局所麻酔を使って行う場合もあります。

そのほかにも、市販の人工の乳輪・乳頭などを必要に応じて装着する方法があります。
対応するメーカー各社のパンフレットを外来では用意しています。

BIA-ALCL について

乳房インプラントについては以前、挿入後にごくまれなリンパ腫(乳房インプラント関連未分化大細胞リンパ腫:BIA-ALCL)が発症する報告が相次ぎ、2019年にそれまで使用されていたインプラントが発売中止となり、社会問題となりました。

現在では新しいタイプのインプラントが承認され、新インプラント使用後のBIA-ALCL発症率は、ほぼゼロと考えられています。また、以前にtexturedインプラントを挿入した方を含め、当院では術後に少なくとも年1回、定期的な診察と超音波検査などを行い、安全を確認しています。

予防的乳腺切除後の乳房再建について

2020年4月から、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)と診断された患者さんに対する予防的切除手術(リスク低減乳房切除術:RRM)が公的医療保険制度の適用対象となりました。それに伴い、切除後の再建も健康保険の適用で可能です。お気軽にご相談ください。

患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック

乳房再建には、様々な選択肢の中でどの時期・方法がふさわしいかをご提案した上で、ご本人の希望に沿った最良の選択をして頂くことが重要です。

そこで、この度日本形成外科学会の編集で、「患者さんと家族のための乳房再建ガイドブック」が医歯薬出版株式会社から出版されました。当科医師も執筆に参加しており、外来でもご覧いただけるようにサンプルを1冊設置予定です。再建をお考えの方々の一助になればと考えています。

性同一性障害、性別不合の外科治療について

当院における性同一性障害外科治療の最新情報を掲載します。参考にしていただければ幸いです。
山梨大学医学部附属病院にお電話でお問い合わせを下さる方が少なくないのですが、内容が難しく、病院のスタッフではお答えすることができませんので、
直接 amomosawa*yamanashi.ac.jpまでご連絡ください(*を@に変えて下さい)。
※ただし、混み合っていますので、返信まで1週間程度のお時間を頂戴しています。
また、附属病院のメール相談口では、ご回答できませんので、よろしくお願いいたします。

MTFの方、FTMの方、共通事項

1)受診に際して必要なもの

当院には、精神科のジェンダー専門医がおりませんので、診断のプロセスは、外部機関にお願いしています。
したがって、ガイドラインに準拠したジェンダー委員会での承認とその証明書が必要です。単なる意見書や診断書では不可です。

関東やその近郊では、

  • 関東ジェンダー医療協議会(横浜メンタルクリニック戸塚)
  • 神奈川ジェンダー委員会(ちあきクリニック)
  • 浦安ジェンダー委員会(あべメンタルクリニック)
  • 北陸GIDネットワーク(さぶりクリニック)

などがあります。

関西地方では、

  • そんメンタルクリニック(関西GICネットワーク)
  • きじまこころクリニック(関西GICネットワーク)
  • いりさわ心と体のクリニック(関西GICネットワーク)
    などがあります。

2)健康保険の適用について

2018年4月より、性同一性障害の外科治療の健康保険の適用が開始されることが決定し、当院は形成外科、産婦人科とも認定施設として登録されました。
しかしながら、残念なことに、厚労省は、ホルモン製剤が性同一性障害者に対しての適用が認められていないことから、これを問題とし、「当該疾患に対して、性同一性障害とホルモン製剤の投与を一連の治療において実施する場合は、原則、混合診療となる」と発表しました。
つまり、保険適用外使用となるホルモン製剤の投与を受けている人は、保険適用の手術をうけることはできない、というわけです。
また、性別適合手術(FTMの子宮卵巣摘出術、MTFの性別適合手術)は、GID学会からの指示もあり、健康保険適用外としております。
したがって、現在保険適用になり得るのは、まだホルモン治療を開始していない方の乳房切除術のみとなります。

早期のホルモン治療の保険適用の開始を期待して待ちましょう。

3)手術予約の手順

予約をされる場合の段取りとしては、まず、一度、主治医からの紹介状を持って、山梨大学医学部附属病院の毎週月曜日の形成外科外来を受診してください。
その際に、適応判定の証明書の確認と手術の概要の説明を行い、ご希望に応じて手術日を決定します。
術前検査は、手術日の2ー4 週間前になります。
ホルモン治療を行っている方は、手術の4週間前に一旦中止して頂きます。
なお、初診受付が10:30までですので、それまでに外来にお越し下さい。
初診は紹介状を持ってそのままお越しいただいても結構ですし、予約センター(055-273-9264)で事前にご予約いただいてもOKです。事前のご予約をいただかない場合の初診受付は10:30までですので、それまでに外来にお越し下さい。

個別の事項

≪MTFの方へ≫

1)費用について

MTFSRS(性別適合手術)
  陰茎陰嚢皮弁法によるMTFSRSを第一選択としています。

  • MTFSRS(造膣、除睾する場合)治療費 約160万円
  • MTFSRS(造膣しない場合)治療費 約150万円
  • MTFSRS(造膣なし、除睾なしの場合)治療費 約147万円

※(入院費、手術費すべて含む)、術前検査費2万5千円、入院期間 約2週間

2)現在の予約状況

現在、少し混み合ってきており、約7ヵ月程度の待機期間となっています。

3)顔面女性化手術(FFS)について

FFS(Facial Feminazation Surgery:顔面女性化手術)
 性同一性障害MTFの方が、女性としての社会生活を営みやすいようにすることを目的に顔面を女性的に形成します。

  • 前頭形成
  • 下顎形成
  • 頬骨形成
  • 鼻形成
  • のど仏切除 

などをその方の顔面形態に合わせて適応することで、顔面形態を女性的に形成します。

4)その他注意事項

現在は、MTFSRSはタイ式の陰茎陰嚢皮膚反転法で行っています。膣の深さは陰茎の大きさに影響を受けます。S状結腸造膣法は行っておりません。

≪FTMの方へ≫

1) 取り扱い手術について

<形成外科担当分>
GID患者に対する乳房切除術
 乳がんに対する乳房切除とは異なり、男性型胸郭を形成する手術です。上半身はだかになったときに、自然な男性型上半身にみえるようになることをめざします。
形成外科担当の乳房切除は現在もこれからも施行しております。
 ミニペニス形成や陰茎形成は今後対応を検討しています。

<産婦人科担当分>
FTMSRSについては
現時点では、当院産婦人科は、ロボット補助内視鏡下子宮付属器切除術に限って取り扱っております。

2) 費用

<乳房切除の場合>
自費診療(健康保険適用外)では、治療費 約70万円(入院費、手術費すべて含む)、術前検査費2万5千円、入院期間 約7-8日間
健康保険適用では3割負担の場合で、約20万円になると思われます。
※現時点では、ノンホルモンの方のみが保険適用になります。
 高額療養費制度の対象となります。
 ホルモン治療中の方は、自費診療(健康保険適用外)での対応になっています。

<FTMSRSの場合>
詳しくは、一度当院産婦人科を受診していただければと思います。
その場合は、担当医からの紹介状を持って、まずは、形成外科 百澤の外来を受診してください。
その上で、産婦人科へ院内依頼という形で紹介いたします。
百澤の外来担当日は、月曜日です。
初診受付が10:30までですので、それまでに外来にお越し下さい。
当院は初診の事前予約は取れないシステムになっていますので紹介状をもってそのままお越し下さい。

3) 手術の予約状況

乳房切除の場合の手術待機期間は、約7ヵ月程度となっています。
FTMSRSは、産婦人科に受診してご相談ください。

4) その他注意事項

乳房切除とFTMSRS(子宮卵巣摘出術)の同時手術は行っておりません。

経口避妊薬(低容量ピル)など女性ホルモン剤を内服中の方は、手術の1ヵ月前までに一旦中止しておいてください。

外来診療予定表

スタッフ紹介

役職 氏名 専門領域 専門医

特任教授(科長)

百澤 明
ももさわ あきら
専門領域:形成外科 再建外科 性同一性障害の外科治療 美容外科 など 専門医:日本形成外科学会専門医・理事長指名議員
日本美容外科学会(JSAPS) 専門医
日本形成外科学会領域指導医
日本形成外科学会 再建・マイクロサージャリー分野指導医
GI(性別不合)(旧GID学会) 理事・認定医
関東ジェンダー医療協議会 理事長
日本創傷外科学会 評議員
日本形成外科手術手技学会 理事

学部内講師

塩川 一郎
しおかわ いちろう
専門領域:形成外科全般 乳房再建 先天異常 難治性潰瘍 専門医:日本形成外科学会専門医
日本形成外科学会小児形成外科分野指導医
日本創傷外科学会専門医

学部内講師

大河内 裕美
おおこうち ひろみ
専門領域:形成外科全般 再建外科 眼瞼下垂 専門医:日本形成外科学会専門医
日本形成外科学会小児形成外科分野指導医
日本形成外科学会領域指導医
日本形成外科学会再建・マイクロサージャリー分野指導医

臨床助教

奈良 誠之
なら まさゆき
専門領域:形成外科 再建外科 難治性潰瘍 美容外科 専門医:日本形成外科学会専門医

非常勤講師

大島 直也
おおしま なおや
専門領域:形成外科全般 外鼻形成 クラニオサージャリー 美容外科 専門医:日本形成外科学会専門医
GI(性別不合)(旧GID学会) 認定医

非常勤講師

水村 奈央
みずむら なお
専門領域:形成外科全般、植毛治療 専門医:日本形成外科学会専門医

臨床助教

石川 あおは
いしかわ あおは
専門領域:形成外科全般

臨床助教

武石(清水) 咲樹
たけいし さき
専門領域:形成外科全般

医員

二宮 瞳子
にのみや とうこ
専門領域:形成外科全般

医員

川端 彬義
かわばた あきよし
専門領域:形成外科全般
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